読解?文法 (200点 90分) 問題Ⅰ 次の文章を読んで、後の問いに答えなさい。 死体ははたしてだれのものか。 ①「自分」のものだとしても、死んだあとでは、所有権を実際に自分で主張することはできない。法的には、そこはどうなっているのか。それを私は、じつは知らないのである。 職業柄、年中扱っている②「もの」の、所有権が不明である。そんなことで、よく仕事が勤まる。 そう③怒られそうだが、むろん常識的には、死体は遺族(注1)のものである。 しかし、ちょっとご想像いただくとわかるはずだが、遺族というのは、しばしば単数ではな い。遺産相続の場合なら、子供にはすべて、平等の権利があるはずである。「ヴェニスの商人」ではないが、それなら肉何ポンド分の権利が、それぞれの子供にあるか。④そんな議論は、聞いたこともない。 こういう議論自体が不謹慎だ。ひょっとすると、そうお考えになる方があるのではないか。もしそうなら、私としては、たいへん我が意を得たことになる。不謹慎であるとか、世の中乱れるとか、人心に与える影響を恐れる。こういった、かならずしも明確に定義できない常識が、死体に関わる多くの問題の背景となっているからである。 こうした常識を考え、それと戦うことは、けっして容易ではない。私は死体を扱うのが仕事だから、そうは言っても、⑤それを考えざるをえない。死体をめぐって、しばしばトラブルが生 じるからである。 こうした漠然とした常識。それの背景を知るためには、じつは日本の文化そのものを追究せざるをえない。私の仕事は、いつの間にか、そういう方向を向いてしまった。 遺族だって、けっして明瞭ではない。しばしば複数の遺族が出現することがあるからである。東京に住んでいる遺族が親の解剖を承諾したが、田舎から出てきた遺族がそれに反対する。こ ういう例も多い。すでに解剖が始まっているときに、「私は解剖するとは聞いてなかった、じつは反対だ」という親族が現れる。これは、われわれがいちばん困惑するケースである。 事前に十分に調べうと言ったって、よその家族の事情だから、それは困難である。解剖を承諾しますと言っていただくだけで、当方としてたいへん感謝している。そこを押して、「お疑い するようでもうしわけないが、もしかしたら、田舎のご親族で、解剖に反対の方がおられませんか」。そんなことを、きけるはずがないではないか。 遺族に私が殴られたりするのは、⑥こうしたケースである。仕事の上だから、別にどうということはないが、250年の歴史を持つ解剖ですら、この国では、⑦かならずしもきちんとした市民権を得ていないことが、よくわかる。 (養老孟司「死体の市民権」『太陽』No.359平凡社による) (注1)遺族:死んだ人の家族や親類 (注2)遺産:死んだ入がのこした財産 問(1) 文中の①~⑦の問いに対する最も適当な答えはどれか。1?2?3?4から一つ選びなさい。①「自分」とはだれか。 1.死んだ人 2.死んだ人の親 3.死んだ人の子供 4.解剖する医者 問(2) ②「もの」とは何か。 1.法律 2.権利 3.死体 4.職業 問(3) ③「怒られそうだが」とあるが、だれが怒られるのか。 1.死体 2.筆者 3.遺族 4.子供 問(4) ④「そんな議論」とは、何についての議論か。 1.死体を分けること 2.幽子供を分けること 3.遺族を分けること 4.家族を分けること 問(5) ⑤「それ」に含まれる内容として適当なものは、次のどれか。 1.明確に定義できない常識 2.自分の仕事のやり方 3.死体をめぐるトラブル 4.死ぬことの意味 問(6) ⑥「こうしたケース」とは、どんな場合か。 1.解剖を承諾した遺族に、感謝のことばを言わなかったような場合 2.解剖が始まってから、解剖に反対の遺族が現れるような場合 3.「田舎のご親族で、解剖に反対の方がおられませんか」と聞いた場合 4.遺族全員が解剖に反対している場合 問(7) ⑦「かならずしもきちんとした市民権を得ていないことが、よくわかる」とあるが、文章中の何によって、それが「よくわかる」のか。 1.遺族がしばしば単数でないこと 2.常識と日本文化には関係があること 3.遺族の意見を十分に調べるのがむりなこと 4.遺族に筆者が殴られたりすること 問(8) この筆者の職業として、最も可能性の高いものは何か。 1.作家 2.弁護士 3.日本文化研究家 4.医者 問(9) 最近筆者はおもにどんなことに関心を持っていると考えられるか。 1.死ぬ権利をめぐるさまざまな議論 2.遺産相続に関する常識 3.死体に関わる常識の文化的背景 4.解剖技術の発展の歴史 問題Ⅱ 次の文章を読んで、後の問いに答えなさい。答えは、1?2?3?4から最も適当な ものを一つ選びなさい。 私の知っている寿司屋の若い主人は、亡くなった彼の父親を、いまだに尊敬している。死ん だ肉親のことは多くの場合、美化されるのが普通だから、彼の父親追憶も①それではないかと聞いていたが、②そのうち考えが変わってきた。 高校を出た時から彼は父親に寿司の握りかた、飯のたきかた-----寿司屋になるすべてを習った。父親は彼の飯のたきかたが下手だとそれをひっくりかえすぐらい厳しかったが、何とい っても腕に差があるから文句はいえない。だがある日、たまりかねて ③「なぜぼくだけに辛く当たるんだ」、ときくと、「俺の子供だから辛く当たるんだ」と言いかえされたと言う。 父親が死に、一人前になって店をついでみると、その辛く当たられた技術が役にたち、④なるほど、なるほどと彼はわかったそうである。 私はこの若主人の話を聞くたびに羨ましいと心の底から思う。そこには我々がある意味 で⑤理想とする父親と子供の関係があるからである。 子供はその時、技術だけではなく父親の生き方も学んでいく。自分のつくる寿司に妥協しない 父親、飯のたき方ひとつにも誠意をもってやる父親の生き方を技術と同時に習っていく。それ が本来、父親というものだ。 私がこの若主人を羨ましいと思ったのは、私には、自分の息子にそのような技術が教えられ ぬからだ。私は小説家だが、息子は別の道に進むにちがいない。私が今日まで習得した小説を書く技術を彼に教えることはできない。今の多くの父親も私と同じような哀しみを子供に持っ ているにちがいない。自分が習得した技術を子供に教えられぬ哀しみ、あるいは教えるべき技術を持たない哀しみが心のどこかにあるにちがいない。そして子供にとっても父親はそれによ って、自分が将来を生きる知恵を伝えてくれる師ではなく、ただ煙ったい存在か、友人のよう なパパにすぎないのであろう。 せめて⑥それなら子供に自分の趣味を吹きこもう。ツリの好きな父親は子供にツリを、レコー ドの好きな父親は子供にクラシックを、薔薇づくりの好きな父親は花のつくり方を子供に教えようとは思うことがあるが……。 (遠藤周作『勇気ある言葉』毎日新聞社による) 問(1) ①それが指す内容として最も適当なものはどれか。 1.死んだ肉親の追憶 2.死んだ肉親の美化 3.死んだ肉親への尊敬 4.死んだ肉親の厳しさ 問(2) ②そのうち考えが変わってきたのは、だれの考えか。 1.筆者 2.寿司屋の若主人 3.亡くなった父親 4.筆者の息子 問(3) ③なぜぼくだけに辛く当たるんだとあるが、「辛く当たる」とはこの場合どういう意 味か。 1.はげしくぶつかる。 2.必要以上に厳しくする。 3.理由を言わずに殴る。 4.何も教えてくれない。 問(4) ④なるほど、なるほどと彼はわかったとあるが、彼がわかったことは何か。 1.父親が死んだ理由。 2.店をついだ理由。 3.父親が辛く当たった理由。 4.筆者が彼を羨ましいと思っている理由。 問(5) 筆者が考える⑤理想とする父親と子供の関係とは、どんな関係か。 1.違う仕事をする関係。 2.趣味を教える関係。 3.お互いに文句を言わない関係。 4.技術とともに生き方を伝えられる関係。 問(6) ⑥それならが指している内容として最も適当なものはどれか。 1.教えられる技術がないなら 2.伝えるべき理想がないなら 3.子供に知恵がないなら 4.子供に趣味がないなら 問(7) この文章に表れている筆者の気持ちはどれか。 1.死んでかち尊敬される父親になるために、趣味を教えよう。 2.父親というのは、死んでから子供に尊敬されたいものである。 3.子供には暴力を使ってもいいから、技術を教えるべきだと思うのだが 4.技術を通して子供に生き方を教えられればよいのだが。 問題Ⅲ 次の(1)~(5)の文章を読んで、それぞれの問いに対する最も適当な答えを1?2?3?4 から一つ選びなさい。 (1)私は自分の行動について、いかなる批評もしなかった。人の眼には、或いは、そうする ことが行動を規制する、ただ一つの方法であるように見えたかも知れないのに、私にとては、それも不要であった。いや、不要ではない。その暇もないほど、それは素早かった。 気がついたときには、もう行動していた。 (宇野干代『行動することが生きることである』海竜社による) 問(1) それとは、何のことか。 1.批評 2.人の眼 3.規制 4.行動 (2)今、公園の池にかかっている橋の辺りに目を向けているとしよう。すると、橋の向こうから一人の少女がやって来る。目はその少女に引きっけられる。このとき、橋や池など周辺のものはすべて、単なる背景になってしまう。カメラでいえば、あっという間に、ピントが少 女に合わせられてしまうのである。ところが逆に、その橋の形が珍しく、それに注目して いるときは、その上を通る人などは背景になってしまう。 (桑原茂夫「ちょっと立ち止まって」『国語1』光村図書出版による) 問(1) この文で言いたいことは何か。 1.人はどのようなものでも同じような見方をしている。 2.何に注目するかによって見えるものが違ってくる。 3.人はどのような時でも人間を中心に見る。 4.カメラを通して見ると、ものが違って見える。 (3)もし、宇宙人がわたしたちの住む太陽系の探検にやってきて、地球を見つけたらなんというでしょうか? おそらくこの地球を「青く光る美しい水球」と名づけることでしょう。海は地球の表面の70.8%をおおっています。また、陸地にもたくさんの川が流れていますし、大きな湖もあります。 宇宙人はまた、地球のところどころが、いつも雲におおわれているのにおどろくことでしょう。雲のかかっている空からは、水が雨となってふり、陸地もつねに、水であらわれています。こうしてみると、わたしたちは水の世界でくらしているとさえいえます。 (半谷高久『水と人間』小峰書店による) 問(1) この文で筆者が言いたいことは何か。 1.宇宙人が地球を「青く光る美しい水球」と名づけたこと 2.宇宙の中で地球は水の豊富な星であること 3.宇宙人がはじめて私たちの住む地球にやってくること 4.宇宙の中では地球がどの星よりも美しいこと (4)日本は、その初期と近代にふたつの計画都市をつくった。京都と札幌である。ふるい都市の代表である京都も、あたらしい都市の代表選手である札幌も、ともに自然発生的な都市ではなく、日本ではひじょうにまれな人工の都市である。京都は中国を、札幌はアメリカをモデルにした都市であり、東洋文明の原点と、西洋文明の到達点をともに共存させているところに、日本文明の特徴があらわれているといえないだろうか。文明とは自己のもつ原理原則の不変性を根本とする。日本の文明は、可変性という原則を不変的にもちつづけた文明であり、札幌の発展は、古代以来の日本文明が、いまだに健在であることのよき例証であろう。 (園田英弘『日本文明77の鍵』「札幌」創元社による) 問(1) 札幌と京都の共通点は何か。 1.同じ都市をモデルにして作られたこと 2.自然にできた都市であること 3.人工的に作られた都市であること 4.東洋の都市をモデルにしていること 問(2) 筆者によると日本文明が不変的に持ち続けている特徴は何か。 1.計画性 2.発展性 3.可変性 4.人工性 (5)状況を認識し、判断し、予測して、目的にかなった作業をおこなう知的なロボットを、知能ロボットという。この知能ロボットは、あまり知的ではない産業用ロボットの進化したもので、経験によって知識を蓄積する学習機能や、作業の計画をたてる機能などももっている。たとえば、図のように赤、黄、緑の積木が積まれているとき、黄色の積木を机の上におけと命令されれば、まずいちばん上の緑の積木をとりのぞいてからでないと、黄色の積木をとれないわけで、どのようにすればよいかをいろいろ試行してみて、目的を達成する手順を見つける。このように知能ロボットは、物体を識別し、適切な作業計画をたてる機能をもっていなければならない。 (「人工知能」『岩波科学百科』岩波書店による)
問(1) この説明によると、知能ロボットが産業用ロボットと違う点は何か。 1.物をつかむことができる 2.経験によって学習できる 3.いろいろな方向に移動できる 4.作業を正確に何回もできる 問(2) 図は知能ロボットのどんな性質を説明するためのものか。 1.作業手順をきめることができるという性質 2.手を自由に動かすことができるといっ性質 3.他のロボットに命令できるといっ性質 4.積木を積むことができるといっ性質 問題IV 次の文の_______にはどんな言葉を入れたらよいか。1?2?3?4から最も適当なも のを一つ選びなさい。 問(1) 子ども_______知っているようなことを大人の私が知らなかったのは、恥ずかしい。 1.なら 2.だから 3.だけが 4.でさえ 問(2) 弟は、酒が飲めない_______ぜんぜん飲めないわけではない。 1.といっても 2.としたら 3.どころか 4.というより 問(3) もし、私の言ったことに何か失礼があった_______、深くおわびします。 1.につけ 2.としたら 3.にせよ 4.としても 問(4) この国の経済_______、今後も注目していく必要がある。 1.にあたっては 2.にかけては 3.に関しては 4.に際しては 問(5) 女性の管理職が増えたといわれているが、まだほんの1割程度_______。 1.に限らない 2.に達している 3.にすぎない 4.に及んでいる 問(6) 待ちに待った夏休みがやっと始まった_______、子どもたちはみんなうれしそうだ。 1.として 2.にあたって 3.とあって 4.にして 問(7) 子どもたちは、机は_______、ピアノにまで上がって遊んでいた。 1.あげく 2.きわみ 3.かぎり 4.おろか 問(8) 早く大きくなって両親の手助けがしたい。幼い_______少年はそう思った。 1.ものを 2.わけで 3.ながらも 4.ことに 問(9) その話は他の人にはおもしろくても、私には退屈_______ものだった。 1.極まって 2.極めて 3.極める 4.極まる 問(10) 試験開始のベルが鳴る_______、学生たちはいっせいに書き始めた。 1.やいなや 2.とたんに 3.ばかりに 4.が最後 問(11) 君がどうしても行ってくれと言うなら_______が、行ってもいい結果は出ないと思う。 1.行くものではない 2.行くことではない 3.行かないものでもない 4.行きはしない 問(12) 昔ほどではない_______、今でも長男が家を継ぐという傾向は残っている。 1.とすると 2.にしても 3.うえに 4.かわりに 問(13) 多くの人々から、家庭教育_______貴重な意見が出された。 1.をめぐって 2.とともに 3.でもって 4.にかけて 問(14) 実際に事故が起こる_______、ようやく自動車会社は事故原因の調査を始めた。 1.にひきかえ 2.について 3.にいたって 4.に際して 問(15) いくら後悔したところで、事故を起こしてからでは_______。 1.どうにもならない 2.どうにかなるだろう 3.どうにかならない 4.どうにもなるだろう 問(16) こんなつらい仕事は、何度やめようと思った_______……。 1.ほどか 2.ものか 3.せいか 4.ことか 問(17) 健康を無視して働き続けるなんて、むちゃとしか_______。 1.言いようがない 2.言うはずはない 3.言うまでもない 4.言うにほかならない 問(18) 店の装飾やサービスに一流の店_______の品が感じられる。 1.であれ 2.ならでは 3.らしき 4.ごとき 問(19) 新しい日本の文化が現在作られつつ_______し、これからも作られていくだろう。 1.みる 2.いる 3.する 4.ある 問(20) 人にはそれぞれ、その人_______生き方や生きがいがあっていいと思う。 1.なりの 2.ための 3.からの 4.ところの 問(21) 最近の日本をとりまく環境には、経済摩擦や輸出入の問題など、きびしい_______。 1.ほかはない 2.ことである 3.ものがある 4.わけではない 問(22) 本人に確かめた _______、彼はそんな場所へは行ったことがないという。 1.もので 2.からには 3.ことで 4.ところ 問(23) 世界的な俳優_______、さすがに演技力が違うようだ。 1.ともなると 2.ともあれ 3.ともすると 4.ともなれ 問(24) うちの会社の部長_______、口で言うばかりで全然実行しようとしない。 1.としたら 2.ときたら 3.ときて 4.として 問(25) あれだけ非難されれば、だれだって一言ぐらいは反論_______。 1.するのではない 2.しないではいられない 3.してはいられない 4.しないのではない 問(26) 昼間はにぎやかなこの道も、早朝の_______あたりに人影はなかった。 1.ことに 2.ことさえ 3.ことでは 4.こととて 問(27) 人間は_______、心ならずも悪事を行ってしまう場合がある。 1.生きぬがために 2.生きんがために 3.生きまいがために 4.生きないがために |